「うちは仲がいいから、相続で揉めることなんてない」
「財産といっても大したものはないから遺言書なんて必要ない」
このように考えて遺言書を作らずに亡くなった結果、残された家族が思わぬトラブルに巻き込まれてしまう――そんなケースは少なくありません。
本記事では、実際によくある事例を交えながら、「遺言書を作っておけばよかった」と後悔しないためのポイントをわかりやすく解説します。


◆実例:長男と次男で不動産を巡る争いに発展

あるご家庭では、父親が亡くなった後に自宅の土地と建物の名義を巡って兄弟間でトラブルが起きました。
父親は生前、長男夫婦と同居していましたが、遺言書を残していませんでした。
遺産分割協議を行う中で、次男は「不動産も平等に分けるべき」と主張し、長男は「自分たちは介護をしてきたのだから住み続けたい」と譲らず、感情的な対立に。結果として調停にまで発展してしまいました。

もしこの父親が、「自宅は長男に相続させる。その代わり預貯金の一部を次男に」といった遺言書を残していれば、こうした争いは避けられた可能性が高いでしょう。
遺言書は「自分の意思」を形にして家族に伝える唯一の方法です。残された人の心情を守り、関係を壊さないための重要な手段なのです。


◆なぜ遺言書が必要なのか?

遺言書の最大の目的は「相続トラブルの防止」です。
日本では、遺産分割を行う際に法定相続分という目安がありますが、現実には「不動産は分けにくい」「介護をした子に多めに渡したい」など、家庭ごとに事情が異なります。
遺言書がない場合、相続人全員で話し合わなければならず、1人でも反対すると手続きが進まないこともあります。

遺言書を作成しておけば、財産の分け方や想いを明確に伝えられ、相続手続きをスムーズに進めることができます。
また、遺言書は「誰に何を遺すか」だけでなく、「家族への感謝の気持ち」や「これからの生活への配慮」を書き添えることもできます。
単なる法的文書ではなく、家族へのメッセージとしての役割も果たすのです。


◆遺言書の種類とそれぞれの特徴

遺言書には大きく分けて3つの種類がありますが、一般的に利用されるのは以下の2つです。

●自筆証書遺言

自分で全文・日付・署名を手書きする遺言書です。費用がかからず手軽に作成できますが、書き方を誤ると無効になるリスクがあります。
また、家庭裁判所の「検認」という手続きが必要で、相続人がすぐに遺言内容を実行できない点も注意が必要です。
ただし、近年は法務局で保管できる「自筆証書遺言書保管制度」が始まり、紛失や改ざんの心配が少なくなりました。

●公正証書遺言

公証役場で公証人に作成してもらう方式です。法的に確実で、家庭裁判所の検認も不要です。
費用はかかりますが、誤りや無効の心配がないため、もっとも安心できる方法といえるでしょう。
行政書士や公証人が内容の相談に乗るため、初めての方でもスムーズに作成できます。


◆後悔しないための3つのポイント

① 思い立ったときに作成する

「まだ元気だから大丈夫」と先延ばしにしているうちに、認知症や病気で判断能力を失ってしまうケースもあります。
遺言書は元気なうちにこそ作るもの。後から修正も可能ですので、まずは一度形にしておくことが大切です。

② 家族の状況を客観的に見る

「誰に何を渡したいか」を考えるとき、自分の希望だけでなく、家族の生活状況・介護の有無・今後の生活を総合的に考えることが大切です。
第三者である行政書士が関与することで、偏りのない内容に整理できます。

③ 専門家に相談して作成する

遺言書には法律上の厳格な要件があります。
形式が整っていないと無効になってしまうため、行政書士などの専門家に相談することで、安心して作成できます。
また、将来の相続登記や遺言執行のことまで見据えて内容を設計できる点も大きなメリットです。


◆行政書士に相談するメリット

行政書士は、相続や遺言に関する書類作成の専門家です。
依頼者の家族構成や財産状況を丁寧にヒアリングし、最も適した遺言の形を提案します。
また、公正証書遺言の作成では公証人との調整や必要書類の準備も代行できるため、スムーズに手続きを進めることが可能です。
「初めてのことで何を準備したらいいか分からない」という方でも安心して相談できます。


◆まとめ

遺言書は、財産をどう分けるかを決めるだけの書類ではありません。
「家族が争わないように」「感謝の気持ちを伝えたい」――その想いを形にするための大切な手段です。
トラブルを未然に防ぐためにも、そしてご自身の意思を確実に伝えるためにも、早めの準備をおすすめします。